「押し売り」と「押し買い」,押し買いの被害者とならないために
押し売りというのは聞いたことはあるが,押し買いというのは聞いたことがない。そうおっしゃる人は多いかもしれません。そういうわたしも押し買いと聞いて,押し売りの間違いではないのかと思ってしまいました。 押し買いの事例としてこんなものがあげられていました。
【事 例】 見知らぬ業者から「何か不要なものはありませんか。なんでも買い取ります」という電話がかかってきた。ちょうど洋服を処分したいと思っていると伝えたら、後日業者が自宅を訪ねてきた。 用意していたものを見せるとざっと見ただけで「指輪など、貴金属はありませんか」と言ってきた。家にある貴金属を見せるようしつこく言われ、仕方なく出したネックレスだけでなく指にはめていた指輪も強引に取られ査定された。 結局洋服はタダで、貴金属類は合計4点を5千円で買い取られてしまった。 翌日になって指輪だけでも返してもらおうと連絡したが、「もう溶かしてしまったので返品できない」と言われた。
http://www.town.shika.lg.jp/shikasypher/www/info/detail.jsp?id=6259(リンク先の都合でリンクが切れています)
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訪問販売と訪問購入
特定商取引に関する法律では押し売りの営業形態を「訪問販売」,押し買いについては「訪問購入」と呼んでいます。訪問購入については平成25年2月21日に施行の改正特定商取引に関する法律に初めて取り入れられました。
押し売り(訪問販売)と押し買い(訪問購入)の相違点
押し売り 安価なものを高値で売りつける 押し買い 高価なものを安価で買い取る
押し売り(訪問販売)と押し買い(訪問購入)の共通点
相手方の自宅を訪れる 相手の困惑,恐怖につけ込んで契約を成立させる
押し買い事例の違反の検討
事例を特定商取引に関する法律の訪問購入の規定からその問題点を探ってみたいと思います。
(1)不招請訪問の禁止
特定商取引に関する法律(特商法)では勧誘の要請をしていないものに対する勧誘を禁止しています。招かざる客はお断りできます。 この事例では洋服の処分について検討をしたいと消費者が申し出ていますので,勧誘の要請をしたと考えられます。一応招いた客ということになります。
しかし,勧誘の要請は洋服についてのものです。特定商取引に関する法律では勧誘するにあたって,事前に勧誘に係る種類を明らかにしなければならないと規定しています。 この事例では洋服の買取については事前に話をしていますが,貴金属の買取については訪問する前に事前に消費者の承諾を受けていません。したがって,貴金属の購入の勧誘はすることはできません。
この義務違反には主務大臣による購入業者に対する必要な措置を講ずるようにという指示,業務の停止などの命令がなされます。
(2)訪問購入における書面の交付
消費者が買取の申出をしたり,買取の契約を結んだときには,買取業者は法律で決められた内容が書いてある書面を相手方に渡さなければなりません。 事例でははっきりしませんが,書面交付義務が果たされていないようです。
義務違反には100万円以下の罰金が課されます。
(3)クーリングオフ
売った人(消費者)が上記の書面が渡された日を含めて8日以内に撤回・解除を申し出たときには,売った者(事業者)は,理由のいかんにかかわらず,無条件で撤回・解除に応じなければなりません。 この事例では,翌日に契約を解除すると伝えたが,買取業者はクーリングオフの申出を無視しています。これは,特定商取引に関する法律(特商法)の定める禁止行為にあたります。違反した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科されます。
クーリング・オフについてはこちらをご覧ください。 内容証明についてはこちらのページ。
消費者の自衛策
以上ご覧になっていただいたように,押し買いの消費者への最初の接触から契約締結,その撤回・解除について詳細にわたって売渡し者(消費者)の保護を図る規定が並んでいます。しかし,名前も名乗らない購入業者が,むりやり安値で買取,行方知れずになってしまえば,その消費者の被害の回復は実際上困難になってしまいます。
そうした事態を避けるための自衛策として次のような方法は有効です。
・知らない業者は安易に家にいれない ・買取を希望するときには,業者への対応の場面に家族や近所の人が同席 ・買取の契約を結んでも,売り渡す物をクーリングオフの期間内中であれば引き渡さなくてもよいことになっていますのでそれまで熟慮が可能
神宮司行政書士事務所 055-251-3962 090-2164-7028
投稿者プロフィール
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