新築の家を借りた人は新築の家を返さなければいけない?(借家の原状回復義務)
Contents
1.原状回復とは何か
(1)原状回復に関する誤解
「原状回復というのは、借りた当初の状態で返す」という誤解が、貸す方も借りる方にもあるような気がします。
貸主は、原状回復なのだから「ともかく元に戻してくれ」といいだします。ここが壊れたから直してくれ。ここは古びてきたにから新しいものに替えて返してくれ。際限なく注文をつけて最終的には貸したときと同じ状態で返すことを貸主は要求します。
借主も、土地上に設置したものを撤去して、整地して返す土地の賃貸借のイメージが強い。そのせいか、借家についても借りた当初の状態で返さなければいけないと思い込んで、貸主の要求を受け入れてしまいます。
(2)自然損耗するものの原状回復
原状回復に関する誤解は、土地のように使用しても通常その使用価値が下がらないものと、家屋のように使用した経過年数によりその価値が低下していくものとを、同じように捉えるところにあるのではないでしょうか。
したがって、使用することによってあるいは時の経過とともにその価値が下がるものの原状回復は次のように考えるのが適当です。
「通常の使用および収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化をのぞいた損傷」がある場合には、その損傷についてのみ借り受けたときの原状に戻して返せばよいことになります。(改正民法621条、平成29年法44をいう以下同じ)
つまり、通常に使用している場合には、賃貸借契約の終了時にはそのままの状態で返還すればよいということです。
ただし、借りて使用していた人(賃借人)の故意・過失、善管注意義務違反や通常の使用を超える損耗・毀損があれば、それを復旧する必要がでてきます。
2.原状回復特約とその有効性
(1)原状回復特約とは
上で述べたように使用することによって自然にその価値が低下するものの原状回復は、原則として通常使用をしていれば賃借人はそのまま返せばよいのです。
しかし、通常は賃貸人が負担すべき自然損耗などによる原状回復費用を賃借人が負担するという約束をすることがあります。こうした契約条項を原状回復特約と呼んでいます。
(2)原状回復特約の有効性
本来は賃貸人が負担すべき自然損耗に対する修繕費などを賃借人に負担させるのは、著しく不公平であるので、公序良俗に反して原状回復特約は無効ではないかと見ることもできます。(民法90条)
この点について、判例は契約自由の原則から特約は有効であると判断しています。(最高裁判所平成17年12月16日判決)
とはいえ、特約が有効と判断される基準は厳格に制限されたものとなっています。
(3)消費者契約法から見た原状回復特約の有効性
消費者契約法10条は「消費者の利益を一方的に害する条項の無効」を定めています。
この定めに原状回復特約が該当し無効であるという最高裁判所の判決はまだありません。
地方裁判所段階では消費者契約法10条を根拠とした無効判決がいくつかでています。
最近のものでは、京都地方裁判所の判決(平成16年3月16日)においても、原状回復特約は消費者契約法10条によって無効であるとしています。
3.まとめ
原状回復義務とは必ずしも借りたときの状態そのままで返却する義務ではありません。ただし、契約で自然損耗分も借主の負担とするという特約がついている場合には注意が必要です。
表題に掲げた極端な例を考えていただければこの理屈はお分かりになったいただけるとおもいます。新築の家を借りたからといって20年使用した後、新築の家を返す必要はないというのは明白です。ただ、契約時にそうすると約束すれば話はまた別ということです。
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