認知症損害賠償事件の最高裁判決にみる成年後見人の賠償責任(成年後見人は監督義務者か)
JR東海が男性の家族に損害賠償を求めていた訴訟の最高裁判所の判決が、最高裁判所で3月1日にありました。
この判決に出てくる監督義務者と成年後見人の関係についてみていきたいと思います。
なお,成年後見人の賠償責任について次の過去のブログも参照してください。
「後見人になったが為に,認知症の人の賠償金を払わされて破産?」
「認知症の親の介護で自己破産?(監督義務者の賠償責任)」
「高齢の妻に認知症の夫の監督義務を認定(名古屋高裁)」
「行政書士の賠償責任補償制度(成年後見人の賠償保険を中心として)」
Contents
●男性の家族は「監督義務者」にあたらない
弁護団などによると、事故が起きたのは2007年12月。認知症の男性は、妻(当時85歳)が目を離したすきに外出して、愛知県大府市にあるJR東海道本線の駅構内から線路に立ち入り、列車にはねられた。JR東海は2010年、列車が遅延して損害が発生したとして、男性の家族に損害賠償を求める訴訟を起こした。
民法では、責任能力がない人は損害賠償責任を負わないとしつつ、その人の「監督義務者」が原則として責任を負うとしている(714条)。男性は認知症で責任能力がなかったとされたため、男性の妻や長男らに「監督義務」があったかどうかが大きな争点になった。
https://www.bengo4.com/saiban/1139/n_4357/ (弁護士ドットコム ニュース)
1.監督義務者とは誰を指すのか
認知症患者などが他人に損害を与えた場合は,その認知症患者には損害を賠償する責任はありません。そのかわりに,認知症患者などを監督する人(監督義務者)が,その監督義務に過失があったことを根拠に,その発生した損害を賠償しなければなりません。(民法714条1項)
(1)旧来,法定の監督義務者とされた賠償責任負担者
手元にある法律関係の書籍の何冊かに当たってみました。法定の監督義務者とされている者は大差ありませんでした。
私なりに整理しますと次のようになります。
ア 未成年者の監督義務者
親権者,親権代行者,未成年後見人
離婚に際して,親権者と別に監護者が選ばれている場合には,監護者が監督義務者
児童福祉施設に入所中の者で親権者・未成年後見人のいない場合には同施設の長
イ 精神的な障害による責任無能力者の監督義務者
成年被後見人の場合 成年後見人
精神障害者の場合 保護者(異論あり)
(2)認知症損害賠償事件の最高裁判決が示した法定の監督義務者
ア 成年後見人,保護者は法定の監督義務者には当たらない
精神的な障害による責任無能力者の法定の監督義務者について旧来それに該当すると考えられていた法的地位に該当する者は,法定の監督義務者ではないと判示しました。
「保護者や成年後見人であることだけでは直ちに法定の監督義務者に該当するということはできない。」と今まで当然監督義務者に該当するとしていた法的立場の人の賠償責任を否定しました。
つまり,成年後見人は法定の監督義務者ではなく,監督義務者として被後見人の引き起こした不法行為の損害賠償義務はないと判決の理由として明確に示しました。
イ 法定の監督義務者に準ずべき者
この判決にしたがうと,精神的な障害による責任無能力者の監督義務者がいないことになってしまいます。
そこで出てきたのが「法定の監督義務者に準ずべき者」という考え方です。714条2項の代理監督者とは違います。
ハ 法定の監督義務者に準ずべき者に当たるかどうかの判断基準
以下にその基準を判決から抜き出しておきます。たぶん私と同じようにちんぷんかんぷんだと思います。
気が向くようでしたら読んでください。
ある者が,精神 障害者に関し,このような法定の監督義務者に準ずべき者に当たるか否かは,その者自身の生活状況や心身の状況などとともに,精神障害者との親族関係の有無・濃 淡,同居の有無その他の日常的な接触の程度,精神障害者の財産管理への関与の状 況などその者と精神障害者との関わりの実情,精神障害者の心身の状況や日常生活 における問題行動の有無・内容,これらに対応して行われている監護や介護の実態 など諸般の事情を総合考慮して,その者が精神障害者を現に監督しているかあるい は監督することが可能かつ容易であるなど衡平の見地からその者に対し精神障害者 の行為に係る責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるか否かという観 点から判断すべきである。
判決全文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/714/085714_hanrei.pdf
2.まとめ
成年後見人は成年被後見人の法定の監督義務者に当然には該当しません。
とはいえ,その置かれた状況においては法定の後見監督義務者に準ずべき者に当たるとして,民法714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)の賠償責任を追及されることもありえます。
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