アルツハイマー病者から見た世界『私は誰になっていくの?』を読みました。
アルツハイマー病者から見た世界を副題とする『私は誰になっていくの?』読みました。
著者はクリスティーン・ボーデン,訳者は桧垣陽子,出版社は株式会社クリエイツかもがわです。
本は本人の書いた部分と関係者の寄稿文で構成されています。関係者の寄稿が本人の書いた部分の解説になっています。この解説の部分に私としては興味を引かれました。
Contents
本人の著作部分について
高級官僚である著者が46歳のとき認知症の診断を受けました。
著者は,認知症の記憶障害,意欲障がい,攻撃性,感情の不安定,易疲労性(疲れやすくなる)などの症状が発生する原因を認知症患者の立場から発言をしていきます。
クリスチャンとしての信仰の話が随所に出てくるためにそうした素養がない者からみるとすこし読みづらさを感じました。
印象に残った一節。車で出かけ用事すませ,45分くらい後に著者は自分の車に戻ります。
「その45分間のうちに,私の車は異星人(エイリアン)の宇宙船に変わってしまっていた!わけがわからないまま運転席に座った。手で何をしたらよいのか,足は車の暗い床のどこにおくのか?まるで一度も乗ったことがない機械のように感じた。」(p107)
関係者の寄稿
「クリスティーンさん訪問の記録」石倉康次
寄稿者は立命館大学産業社会部教授(2013年現在)で2003年に著者クリスティーンさんをオーストラリアの自宅を訪ねました。そのときのやり取りのレポートを寄稿しています。
この本の執筆後にクリスティーンさんはポールさんと再婚をしています。このレポートを読むとなにか新婚家庭のお宅を訪問しているかのような雰囲気のなかでインタビューがおこなわれいます。
「クリスティーンさんがテーブルクロス広げようと,戸棚から新しいものをとりだしてテーブルの上におきました。でもその時にかかってきた電話に気をとられ,そのままにして台所の方にいってしまったので,テーブルクロスは私たちの手で広げることになりました。しかし,この他には,クリスティーンさんに認知症の症状らしいところを外見から気づかされることはありませんでした」(p214)
このインタビューの後日にクリスティーンさんは2冊目の本『私は私になっていくー認知症とダンスを』発表しています。
「認知症を生きるということ」小澤勲
寄稿者は精神科医の方です。画像診断では「認知症であることに疑いを差し挟む余地はない。しかし,アルツハイマー病とも前頭側頭型認知症とも異なる,きわめて非定型的なもの」(p223)と診断しています。また,「世界的に見ても類書の少ないアルツハイマー病を病む方が書いたこの本(わが国にはまだない)の意味は,認知症を病む人からみた世界が手に取るようにわかるという点にあるだろう。」(p223)と高く小澤医師は評価しています。
読後感まとめ
「認知症になってしまえば本人には何もわからない。だから,かえって幸せかもしれない。」などと軽口を叩く人もいますが,この本を読む限りそれは全くの誤解であると気づきます。この著者のように脳の損傷にもかかわらず自分の気持ち,感じ方などを言葉で伝えることができることはまれなのかもしれません。認知症を自らの運命として生きている患者の発言に耳を傾けて,認知症の理解が深まることを期待します。
その人にとって生きていく意味が「宗教であったり,釣りであったり」するわけですが,それが人生の希望につながり,救いにもなる。そう著者が繰り返し述べているのが印象的です。
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