妻側の親族には自分の財産を渡したくない(後継ぎ遺贈型受益者連続信託)
Contents
1.子のない夫婦の相続
(1)子のない夫婦の相続の一例
たとえば,夫側の親族は弟と弟の子(甥)だけという家族状況の家庭の相続について考えてみます。
①妻が,夫の死亡により夫の財産を相続。
②妻が死亡したとき夫から相続した財産は,妻側の親族だけに相続される。
②の段階で夫側親族から不満が出ることがあります。
妻が夫の財産を相続してそれを生活の糧にするのは分かる。しかし,妻が死亡したとき妻側の親族がもともと夫のものであった財産を相続するのは納得がいかない。という不満です。
(2)複数回の相続財産移転を内容とする遺言は不可
自分の意思に基づいて死後の自分の財産の処分する方法として遺言があります。とはいえ,遺言でできる財産処分は一回だけです。
妻に自分の財産をすべて相続させるという遺言は可能です。しかし,その妻が死亡したときには自分が相続させた財産を甥に相続させるという遺言はできません。
妻がいったん相続した財産は妻の所有となり,妻の死亡後の財産の処分は妻の意思により次に相続されるのが原則です。長期にわたって遺産を遺言者の意思で拘束するのはよろしくないという判断もあり,民法では認められていないようです。
2.死後の複数回遺産移転指示を可能にする方法(後継ぎ遺贈型受益者連続信託の利用)
(1)後継ぎ遺贈型受益者連続信託を設定
受益者の死亡により順次他の者が新たな受益権を取得するという内容の信託を使うことによって数次の相続財産の移転を本人が生前に指示できます。(信託法91条)
このような信託を受益者連続型信託と呼んだり,後継ぎ遺贈型受益者連続信託と呼んだりしています。
「後継ぎ遺贈型」とは,妻にまず遺贈し妻が死亡したときに妻に遺贈した財産を甥に遺贈するというように,遺贈の後継ぎ先を決めているという意味合いを表しています。死亡を契機として受益者が変わる内容の信託の名としては,後継ぎ遺贈型受益者連続信託の呼び名がふさわしいと思いますので,以後はその名に統一して使います。
(2)後継ぎ遺贈型受益者連続信託の有効期間
後継ぎ遺贈型受益者連続信託の有効期間は30年です。
正確には,「 当該信託がされた時から三十年を経過した時以後に現に存する受益者が当該定めにより受益権を取得した場合であって当該受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでの間」です。(信託法91条)
30年の有効期間は具体的には次のようになります。
①第一次受益者が長生きして30年を経過したあとに死亡した場合
次の第二次受益者が死亡したときに信託が終了します。
②第一次受益者が30年を経過する前に死亡し,第二次受益者が受益権を取得して信託設定後30年を経過した後に死亡した場合
次の第三次受益者が死亡したときに信託が終了します。
(3)後継ぎ遺贈型受益者連続信託と遺留分
「後継ぎ遺贈」の法的な性格については明文の規定はありませんが,委託者本人が死亡した時点で遺留分を判断すると解釈されているようです。
各次の受益者は委託者本人から直接受益権を取得し,第一次受益者が持つ受益権を第二次受益者が相続するというようなものではないとされています。
(4)後継ぎ遺贈型受益者連続信託の税務上の難点
ア 相続税の2割加算(相続税法18条)
子供のいない家庭の例で説明します。
妻が死亡し第二次受益者である甥が受益者となるときには,税法上は妻が夫の甥に遺贈したとみなして相続税が課せられます。妻と甥は配偶者の関係でもなく,一親等の血族でもありませんので,相続税が2割加算されます。(相続税法18条)
イ 制限付き受益権であっても制限がないものとして相続税評価額を算定(相続税法9条の3)
たとえば,信託された財産が相続税評価額1億の賃貸用オフィスビルだったとします。賃料収入を死亡するまで受け取るという内容の受益権であっても,その受益者はオフィスビルそのものを取得したとみなされて1億円に対する相続税がかかってきます。
3.まとめ
後継ぎ遺贈型受益者連続信託を採用することによって,確かに自分の死後に発生する先のさきまでの自分の財産の移動先を指示することは可能になります。
しかし,税法上のデメリットもかなり大きなものになることも考慮に入れる必要があります。
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