相続放棄をしたからといって,相続財産の管理責任までなくなるわけではありません。
前回のブログ「物を捨てることはできる。では,土地建物を捨てることはできるだろうか。」の中で,一切の相続財産を放棄することによって不動産の所有権も放棄することができると言いました。
しかし,所有権は放棄できても,相続財産の管理責任までが自動的になくなるわけではありません。とくに不動産の管理が問題になります。
Contents
一 相続財産管理
1 相続開始直後
相続財産は,相続開始から相続の放棄・承認があるまでは相続人全員の共同管理です。相続人は,自分の財産を扱うのと同じ注意を払って相続財産を管理する必要があります。「固有財産におけるのと同一の注意をもって,相続財産を管理しなければならない」(民法918条1項)と定めています。
2 相続放棄時に他の共同相続人がいる場合
他の相続人が相続財産を管理しはじめたとき,相続放棄した人の相続財産の管理義務はなくなります。それまでは,「固有財産におけるのと同一の注意をもって,相続財産を管理しなければ」なりません。
3 相続放棄時に他の共同相続人が誰もいない場合
管理を引き継ぐ相続人が誰もいないときには,相続財産管理人を家庭裁判所に選任してもらい,その相続財産管理人に相続財産の管理を引き継ぎます。それまでは,「固有財産におけるのと同一の注意をもって,相続財産を管理しなければ」なりません。
二 相続放棄においての不動産の財産管理の問題点
不動産の財産管理につきましても一の相続財産管理で述べたのと変わるところはありません。しかし,不動産特有の問題があります。
1 不動産の管理・維持費
不動産は他の財産と違いその管理に多額の費用が必要になるのが一般的です。また固定資産税の支払いもしなければなりません。
相続財産のほとんどが負債ばかりだからという理由で,相続放棄を放棄している場合には管理・維持費が相続放棄者の負担になってしまうおそれがあります。とくに,相続財産が劣悪財産である場合にはこのことが顕著です。田舎の不動産などはこれに該当するものが多いでしょう。
2 不動産の管理責任
不動産を管理している者には種々の法的責任が生じるのは前回のブログでもお話ししたとおりです。
さらに,最近では地方自治体により「雑草除去条例」「空き屋管理条例」などが制定され管理の負担が増えてきています。
ちなみに,山梨県においては「空き屋管理条例」の制定自治体は現時点ではないようです。「雑草除去条例」は南アルプス市,北杜市,甲斐市,昭和町で制定されています。
3 相続財産管理人制度利用のための費用
他に相続人がいない場合,不動産の管理・維持費や不動産の管理責任を逃れるためには,相続財産管理人を家庭裁判所に選任してもらうしかありません。
しかし,そのためにはお金がかかります。地方の家庭裁判所でも相続財産管理人選任の申立をあたり,最低でも数十万円を予納する必要があると聞きます。
お金がないから相続放棄をしたという場合には,費用のかかる相続財産管理人の選任申し立てをするはずがありません。
三 まとめ
相続放棄をしても相続財産の管理責任は残ります。相続財産が不動産ですと管理責任・管理費用が相続を放棄した人に重くのしかかります。
借金が多額であり,不動産が劣悪なものばかりであれば,相続放棄時に他の共同相続人が伊那相続放棄者は管理に要した費用は回収できずに赤字ということになりかねません。
売却も活用も難しい劣悪不動産の相続が増えるのにともない,放置不動産が増え,空き屋問題が多発する一因にもなっています。
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