身体に障害がある人が採用できる遺言の方式(2)
前回は,言語機能障害者・聴覚障害者と遺言の方式について説明をしてきました。今回は,残された視覚障害者についてです。
Contents
(3)目が見えない者(視覚障害者)
視覚障害者は普通遺言のうち,公正証書による遺言方式のみが採用可能です。
①自筆証書遺言
自筆証書遺言においては,遺言者がその全文,日付,氏名を自署し押印する必要がありますが,目が見えない者にはそれは通常は可能ではありません。自書,署名の能力が欠けています。
したがって,視覚障害者は自筆証書遺言は採用できません。
②秘密証書遺言
秘密証書遺言は以下の手続が必要です。
ア 遺言者が遺言の内容が書いてある文書に署名・押印する
イ 証明押印した文書を封筒に入れてさきほど押印した印で封印する
ウ 公証人・証人の前でその封印した封筒を差し出して「自分の遺言書であり,筆者の氏名・住所を申し述べる」
秘密証書遺言は遺言を自書する必要はありませんが,署名する文書に自分が意図する遺言内容が書かれているか確認をすることは通常は困難です。
したがって,視覚障害者は秘密証書遺言が採用できません。
③公正証書遺言
公正証書遺言は次の手続を踏む必要があります。
ア 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口頭で伝える(口授)
イ 公証人が遺言者の言った内容を筆記する
ウ 筆記したものを遺言者・証人に読み聞かせるか閲覧させる
エ 遺言者・証人が口頭で伝えた内容が正確に筆記されていることを承認をし,各人が署名・押印する。
(署名ができない場合は公証人がその理由を添え書きして署名に代えることができます)
視覚障害者は遺言の趣旨を公証人に口頭で伝えることは可能です。
公証人が筆記したものとして読み上げる内容と自分が公証人に口授した遺言の趣旨と相違ないかを判断することもできます。
また,署名が可能でない場合は公証人がその旨を書き添えることによって省略が可能です。
一点気になることがでてきます。
それは,「遺言者及び証人が,筆記の正確なことを承認した後,各自これに署名し」となっています(民法969条4号)。公証人が筆記したものを正確に読みあげているのかを目視して,確認する必要があるという趣旨の規定なのかという問題です。つまり,公証人が,筆記したものとは違う内容を読み聞かせる不正をチェックする必要があるのかないのかということです。
この問題について,視覚障害者の証人についての判例があります。
公証人がそうした不正をおこなうというほとんど考えられない希有の例であり,視覚障害者は証人になる資格があると判示しています。
視覚障害者が証人になることに問題がないとするならば,視覚障害者が公正証書遺言の遺言者になれると判断して問題はないのではないでしょうか。
(昭和55年12月4日最高裁判決)
(前橋公証人合同役場)
3.まとめ
以上の検討によれば,身体障害を原因として遺言の方式が制限されるのは視覚障害者のみだということになります。
ここでは二重苦,三重苦のケースは検討していませんが,さらに制限を受ける範囲が広がると予想されます。
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