遺言によっても奪えない遺留分(相続のトラブルを複雑にさせる遺留分制度)

親子ですし職人だった佐山さん。父は二〇〇七年に急死した。遺産を相続するのは母と佐山さん、妹の三人のつもりでいた。遺産は店舗とその土地だけで、当時、一家は店の売り上げで暮らしていた。父は相続の準備を何もしていなかったため、「母がすべてを相続」という方針を決め、妹も了解してくれた。

ところが、父の四十九日法要の翌日、相続手続きを依頼した司法書士から「もう一人相続人がいる」と告げられた。父の前妻の娘だった。前妻やその娘の存在は初耳で驚いた。佐山さんや母の貯金は少なく、前妻の娘が強硬に法定相続分(六分の一)を主張したら、店やその土地を売って換金しなければならない。そうなると生活に困る。

そこで佐山さんは「母がすべてを相続」という内容の遺産分割協議書を、前妻の娘に送った。しかし、二週間、三週間がたっても返事はこない。気が気でない母は病気になるほど深く悩んだ。一カ月が過ぎたころ、やっと協議書の内容を認めた返事が戻ってきた。

佐山さんは「単なる結果オーライ。父が全財産を母に相続させるという遺言書を残してくれれば、不安な毎日を過ごすことはなかった」と強調する。

引用元: 東京新聞:<よーく考えよう 相続>遺言書作成するには 効力が高い「公正証書」:暮らし(TOKYO Web).(リンク元が削除されました)

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1.遺言で全財産を妻に相続させることについて

引用した記事は,相続のトラブル回避に遺言書が有効であるという記事の一節です。私ども行政書士の仲間のお名前が出ていましたので,拝読させていただきました。取材を受けた行政書士の話をまとめた記者がどうもすこし勘違いしているようなのです。

引用の最後の一文「父が全財産を母に相続させるという遺言書を残してくれれば、不安な毎日を過ごすことはなかった」は少し違うのです。
「全財産を母に相続させる」という遺言書を残していても,父と前妻との子がいるということになると枕を高くして寝てはいられません

父と前妻との間の子が遺留分を請求してくれば,遺言があっても全財産をお母さんが受け取るわけにはいかなくなるのです。

2.遺留分とは

遺言で自分の財産を処分するにあたって,特定の人には最低限残しておかなければいけない割合が決められています。特定の人というのは,兄弟姉妹を除く法定相続人です。配偶者,子どもなどの直系尊属,親などの直系尊属のことを指します。

遺留分を持つ人(遺留分権利者)はその権利を主張してもいいし,主張しなくてもかまいません。引用文の事例では,父と前妻との間の子は遺留分が欲しいのであれば請求すればよく(遺留分減殺請求),欲しくないのであれば黙っていればよいのです。

遺留分減殺請求の時効は1年間です。

3.遺留分の割合

①直系尊属のみが法定相続人である場合は,亡くなった人の相続財産の三分の一
②それ以外の場合は,亡くなった人の相続財産の半分

①②の額を法定相続割合にしたがって分割した額が,それぞれの法定相続人の遺留分となります。

引用した事例に沿って考えますと,前妻の子の遺留分は十二分の一となります。
配偶者と子どもですから②に該当しますので遺留分率は相続財産の半分となります。したがって,総体的遺留分は相続財産の二分の一です。個々人の個別遺留分は法定相続分を使い算出します。

算式:
総体的遺留分=相続財産✕1/2
前妻の子の法定相続分=1/2✕1/3
前妻の子の個別遺留分=相続財産✕1/2✕1/2✕1/3=1/12

つまり,前妻の子は遺留分として十二分の一を請求できるます。

4.全財産を配偶者に相続させる遺言と遺留分
(1)法定相続人が妻と子の場合

子に遺留分が発生します。前妻の子,養子,認知した子も同様です。

(2)法定相続人が妻と親の場合

親に遺留分が発生します。子ども全員が相続放棄した場合もこのケースに該当します。

(3)法定相続人が妻と夫の兄弟姉妹の場合

兄弟姉妹には遺留分はありませんので,遺留分問題は起きません。この場合は全財産を妻に残すという遺言が妻と兄弟姉妹との遺産分割協議をシャットアウトすることができます

5.まとめ

遺言で特定の相続人に集中して全財産を相続させる場合においては,つねに遺留分の問題を意識しなければなりません。
妻に全財産を遺言で残す場合においても同様な配慮が必要になります。

遺留分問題を相続においてどう解決するかが,遺言を考える場合の重要テーマです。

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投稿者プロフィール

神宮司 公三
神宮司 公三神宮司行政書士事務所所長
山梨県甲府市の特定行政書士。守秘義務がありますので相談したことが外部に漏れることはありませんので,安心してご相談ください。幅広い範囲のお困りごとに対応しています。お気軽にお問い合わせください。遺言書作成,相続手続の相談,官公署への許認可の相談・申請手続き代理,任意後見・法定後見のご相談,ご契約についてのご相談など。

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