保険の受取人を愛人にしたい(遺言による変更)
平成22年4月1日から施行された保険法が遺言による保険金受取人の変更を明文で認めました。
生命保険の死亡保険金受取人を愛人に指定したいという希望をもっている人は,うまくすれば保険金の受取人を遺言によって愛人に変更することができるのではないかと期待します。
残念ながら,遺言によって保険金受取人を変更するのも容易ではないようです。その理由を少し見てみましょう。
(1)遺言による受取人変更があったことを保険契約者(注=被保険者)の相続人が保険会社に知らせる必要があります。その通知がないと遺言により変更された受取人は保険会社に死亡保険金の受取を請求することができません。
(注 遺言による受取人変更が可能な契約形態は保険契約者と被保険者が同一人の契約のみです。受取人の変更ができるのは保険契約者のみであり,受取人の変更については被保険者の同意が必要になるからです。)
愛人が保険金受取人に変更されたことを相続人が保険会社に申し出るはずがありません。変更前の受取人が保険金を受け取ってしまいます。
相続人が保険会社に遺言による受取人変更があったことを伝えないリスクを避けるためにその遺言で同時に相続人以外の人を遺言執行者として指定しておくことが必要になります。遺言執行者は相続人の代理人ですから保険会社に対して遺言による死亡保険金受取人の変更があったことを通知できます。
(2)受取人変更が社会の秩序・道徳(公序良俗)に反しないことが必要です。もしそれに反すると言うことであればその受取人変更は効力がないことになります。遺言だからと言って絶対ではないのです。
公序良俗違反の受取人変更かどうかの判断基準は裁判例を参考に次のようなものだと考えられているようです。
ア 不倫関係の維持継続を目的としているか。
イ 不倫相手の生活を守る目的であるか
ウ 受取人の変更が相続人の生活に与える影響はどの程度か
その受取人変更が以上の点から判断して問題がないのかどうかを検討することにより,受取人の変更が有効か無効かどうかの判断がされます。
(3)保険会社の考えも,遺言による死亡保険金受取人変更が認められるかにかかわってきます。遺言執行者を遺言で指定し,さらに,公序良俗に反しないとしても保険会社が約款上,遺言による変更を認めていなければ意味がありません。
また,遺言による死亡保険金受取人変更を約款上認めていても,モラルリスク回避のために愛人を死亡保険金受取人とすることを認めていないこともあります。このような保険会社の意志に反する受取人変更については保険会社も裁判で争ってくる可能性もあります。
以上3点,遺言による死亡保険金受取人変更の障害を取り上げました。こうしたハードルを考慮すると遺言による死亡保険金受取人変更はあまり賢い方法ではないと思います。
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