認知症であるのに法定後見を利用しなかった場合のデメリットはなにか。
前回,認知症であっても家庭裁判所に申立をしなければ自動的に法定後見制度を利用できるわけではないというお話をしました。
それでは判断能力が不十分な人が法定後見制度を利用しない場合になにか不都合なことがあるのでしょうか。私の周りにもそうした人が何人かいます。本当になんの不都合もないのでしょうか。
一見,法定後見を利用しなくてもなんの支障もないように思えます。しかし,家庭の事情によっては大きな障害になる場合も出てきます。以下にそのことを少し見ていきたいと思います。話しを分かり易くするためにここでは判断能力を欠くことが普通の状態である成年被後見人(支援を受ける本人)を例にして考えてみます。
(1)銀行での日常の預金の引き下ろしについては特に支障はないのが普通でしょう。キャッシュカードを使用せずに窓口で印鑑と通帳で引き下ろしてもおなじです。とはいえ,本人が認知症で判断能力を欠いていると銀行が知ったとたんにその口座は凍結されてしまいます。
配偶者であっても子供であっても引き出しは出来なくなります。唯一引き出しが可能なのは裁判所が選任した法定後見人だけになります。最近の金融機関における取扱いはますます厳格になってきています。
(2)認知症のために契約の意味もわからないまま悪徳商法の標的になってしまうことがあります。とくに子供と離れて暮らしている場合には発見がおくれます。成年被後見人の審判を受けていれば後見人は直ちにその無用な契約を取り消すことが出来ます。しかし,法定後見制度を利用していない場合は契約がなかったことにすることは容易ではありません。契約時に意思能力がなかったことを認知症の方の側が示さなければならないのです。
(3)その他,日用品の購入や日常生活に関する取引以外の法律行為は被成年後見人の場合は直ちに取り消せます。しかし,法定後見制度を利用していない場合には契約時に意思能力がなかったことを相手に示して契約が無効であることを告げる必要があります。
以上思いつくまま例を挙げました。本人の財産・生活状況,家族環境などによっては法定後見制度を利用することが本人のためにひいては家族のためになる場合があります。本人の認知症が疑われるときには法定後見の利用も検討することをお勧めします。
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